睡眠時無呼吸症候群とは|見逃しやすい症状と診断までの流れ

「いびきがひどいと言われた」「朝起きても疲れが取れない」「昼間とにかく眠い」——これらは睡眠時無呼吸症候群(SAS)のサインかもしれません。どんな病気か、どう診断されるかを整理します。
「睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome、SAS)」という名前を聞いたことがあっても、「自分がそうかもしれない」とは気づきにくい病気です。なぜなら、症状の多くが「眠れている」と感じながら進行するからです。
睡眠時無呼吸症候群とは
睡眠中に呼吸が止まる(無呼吸)または極端に浅くなる(低呼吸)状態が繰り返される病気です。無呼吸・低呼吸の回数を1時間あたりに換算した数値を(Apnea Hypopnea Index)と呼び、この数値によって重症度が分類されます。
- AHI 5〜14:軽症
- AHI 15〜29:中等症
- AHI 30以上:重症
呼吸が止まるたびに脳は「危険」と察知して覚醒(目覚め)反応を起こします。本人はほとんど意識しないレベルの覚醒でも、一晩に何十回も繰り返されると睡眠の質が大きく損なわれ、さまざまな日中症状として現れます。
「まさか自分が」と見逃しやすい理由
SASで受診する方の多くは、最初は「疲れているだけ」「年齢のせい」「睡眠が浅い体質」と思っていたと話します。見逃しやすい理由がいくつかあります。
「眠れている感覚」がある:無呼吸のたびに目が覚めていても、それは数秒〜10秒程度の覚醒で、本人には記憶がありません。「朝までちゃんと眠れた」と感じながら、実際には睡眠の質が著しく低下していることがあります。
症状が「老化」や「ストレス」に似ている:日中の眠気・集中力の低下・気力のなさ・朝の頭重感は、多忙・加齢・抑うつ症状とも重なります。「仕事が忙しいから」「年だから」と流してしまいがちです。
パートナーがいないと気づきにくい:いびき・呼吸停止は本人には気づけません。一人暮らしの方や、別室で寝ているパートナーがいる場合は、周囲から指摘を受けるきっかけがないことがあります。
SASのサイン|こんな症状があれば要注意
以下に当てはまる項目が複数あれば、SASの可能性を疑って専門医に相談することをお勧めします。
夜間・睡眠中の症状
- いびきが大きい(特に「途中で止まる」いびき)
- 睡眠中に呼吸が止まっていると指摘されたことがある
- 夜中に何度もトイレに起きる(夜間頻尿)
- 寝汗が多い
- 寝ているのに息苦しくて目が覚める
起床時・午前中の症状
- 朝起きたとき、頭が重い・頭痛がある
- 寝た気がしない・全然疲れが取れない
- 口が渇いている
日中の症状
- 会議・電車・食後に強い眠気が来る
- 集中力が続かない、ぼーっとする時間が多い
- 車の運転中に眠気を感じる(事故やヒヤリハットの経験)
- イライラしやすくなった、気力が落ちた
夜間頻尿については、SASによる覚醒反応が「トイレに行きたい」という感覚として現れることがあるため、泌尿器科で異常がなかった方でもSASが原因のことがあります。
これらに複数当てはまる場合は、自己判断を続けるより、まず睡眠中の呼吸状態を検査で確認する方法があります。当院では、オンラインで症状を伺ったうえで、ご自宅で行える検査をご案内しています。対象となる症状や受診の流れは、いびき・日中の眠気 専門外来でご確認いただけます。
「忙しいから後回し」にしているなら、これだけ読んでください
SASによる日中の眠気は、単なる寝不足とは根本的に異なります。睡眠中の繰り返す低酸素と睡眠分断が原因であるため、「早く寝れば解決する」類の問題ではありません。
国内外のガイドラインが特に強調しているのが交通事故リスクです。未治療のSAS患者は、健常者と比較して居眠り運転による交通事故のリスクが2〜7倍に高まるという研究が複数あります。自分が「眠い」と感じていなくても、反応速度・注意力の低下は無自覚のまま進行します。「ヒヤリとした経験はあるが事故は起こしていない」という段階で受診することが、自分だけでなく周囲の安全を守ることにつながります。
どんな人がなりやすいか
SASは「太った中年男性の病気」というイメージがありますが、実際にはもっと広い層に見られます。
なりやすい体型・身体的特徴
- 肥満(BMI 25以上):首周りの脂肪が気道を圧迫する
- 顎が小さい・下顎が後退している(痩せていてもなりやすい)
- 扁桃腺・口蓋垂が大きい
- 鼻が詰まりやすい・鼻中隔が曲がっている
なりやすい生活・体質
- 飲酒習慣がある(アルコールが気道の筋肉を弛緩させる)
- 仰向けで寝ることが多い
- 閉経後の女性(女性ホルモンの低下が気道筋肉の緊張に影響)
また、SASは遺伝的な要素(顎の形・気道の構造)も関わるため、家族にいびきが多い人がいる場合も注意が必要です。
診断はどうやって受けるか
ステップ1:問診・スクリーニング
受診すると、まず問診票(眠気の尺度・症状の確認)が行われます。STOP-BANG質問票やエプワース眠気尺度(ESS)といったツールを使ってリスクを評価します。
ステップ2:簡易睡眠検査(自宅でできる)
多くの場合、最初の検査は自宅で行う「簡易検査(携帯用睡眠時無呼吸検査)」です。鼻の下にセンサーを当て、指にパルスオキシメーターを装着して一晩データを取ります。機器は貸し出しで持ち帰り、翌朝返却するだけです。この検査で無呼吸・低呼吸の回数の目安(。結果票では便宜的にAHIと表示されることがあります)がわかります。
ステップ3:精密検査(PSG)が必要な場合
簡易検査で判定が難しい場合や、重症の疑いが強い場合は、より詳しいが検討されます。脳波・眼球運動・血中酸素濃度・呼吸気流など多くのセンサーを装着して詳細なデータを取得する検査で、検査センターや入院で行うほか、在宅で実施できるタイプもあります。
ステップ4:診断と治療方針の決定
検査結果をもとに医師が診断し、治療方針を説明します。AHIが5未満の場合は一般に正常範囲と評価されます。ただし、自宅の簡易検査は実際の値より低く出やすいため、いびきや強い眠気などの症状がある場合は、数値だけで判断せず追加の評価(PSGなど)が検討されることがあります。AHI 5以上であれば重症度に応じた治療が検討されますが、治療の選択肢はAHIの値によって変わります。
- 軽症域(PSGでAHI 15未満など):マウスピース(口腔内装置・OA)や体位変換療法・生活習慣改善が主な選択肢になります。CPAPが保険適用となるには、令和8年度の診療報酬改定後の基準で、原則としてPSGでAHI 15以上(または簡易検査でAHI 30以上かつ症状あり)が必要です(以前はそれぞれAHI 20以上・AHI 40以上でした)
- PSGでAHI 15以上(またはこれに相当する簡易検査の結果):CPAP療法が保険適用の主な選択肢となります。基準は今後も見直される可能性があるため、最新の数値は医療機関にご確認ください
「AHIが少し高いと言われたが、すぐCPAPになるわけではない」「AHIが10台でもマウスピースで改善できるケースがある」ということを知っておくと、診察時に医師と具体的な相談がしやすくなります。
「いびきがひどい」だけで受診してもいいか
はい、受診の理由としては十分です。「診断されなかったとしても、無駄足にならないか」という不安を持つ方もいますが、SASでなかった場合も、いびきや睡眠の問題の別の原因(鼻炎・扁桃肥大など)を確認するきっかけになります。「いびきが気になる」「昼の眠気が強い」「朝すっきり起きられない」という状態が続いているなら、放置せずに一度相談することをお勧めします。

