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居眠り運転事故を防ぐには|点呼・健康管理体制とSASスクリーニングの位置づけ

居眠り運転事故を防ぐには|点呼・健康管理体制とSASスクリーニングの位置づけ

点呼という現場統制の仕組みと、SASスクリーニングという医学的な仕組みがそれぞれどこまでリスクをカバーするのか。IT点呼・遠隔点呼の普及状況もあわせて解説します。

「点呼は毎回きちんと行っている。それでも居眠り運転事故のリスクをゼロにできている自信がない」という運行管理者へ。点呼という現場統制の仕組みと、SASスクリーニングという医学的な仕組みが、それぞれどこまでリスクをカバーし、どこに限界があるのかを整理します。

運行管理者が日々向き合っている点呼は、居眠り運転対策の最前線です。しかし、点呼だけで居眠り運転リスクをすべて把握できるわけではありません。運転者本人が自覚していないSASのリスクは、どれだけ丁寧に点呼を行っても、自己申告という仕組みの限界を超えることができないからです。この記事では、点呼に関する法定義務の中身を確認したうえで、その限界を補完する仕組みとしてSASスクリーニングをどう位置づけるべきか、そして近年急速に普及しているIT点呼・遠隔点呼と睡眠データ連携の実例までを解説します。

点呼で法的に確認しなければならないこと

貨物自動車運送事業輸送安全規則第7条は、乗務前点呼において、運行管理者が対面(やむを得ない場合は電話その他の方法)により、アルコール検知器を用いた酒気帯びの有無の確認に加え、疾病・疲労・睡眠不足その他の理由により安全な運転をすることができないおそれの有無について、報告を求め、かつ確認することを義務付けています。これに対応して、同規則第17条は運転者側にも、点呼を受ける義務と、疾病や疲労、睡眠不足などの状態を偽りなく申し出る報告義務を課しています。

さらに同規則第8条では、点呼を実施した際の記録項目が細かく指定されています。点呼執行者名、運転者名、車両登録番号、点呼日時、点呼方法、酒気帯びの有無、疾病・疲労・睡眠不足等の状況、日常点検の状況、指示内容を記録し、当該営業所において1年間保存することが義務付けられており、平成30年4月の規則改正以降は、電磁的方法によるデジタル保存も認められています。

万が一、運転者が脳疾患・心臓疾患・意識障害等の疾病により運行を継続できなくなった場合には、国土交通省『自動車事故報告書等の取扱要領』および自動車事故報告規則第2条第9号に基づき、発生後30日以内に「自動車事故報告書」を国土交通省へ提出する義務も発生します。これらはいずれも法令上の明確な義務であり、未実施や記録不備は行政処分の対象になります。

点呼という仕組みの構造的な限界

ここまでの内容だけを見ると、「点呼をきちんとやっていればリスク管理は十分」と感じるかもしれません。しかし、点呼には構造的な限界があります。それは、疾病・疲労・睡眠不足の確認が、最終的には運転者本人の「報告」に依存しているという点です。

SASの厄介な点は、本人が自覚しないまま進行するケースが少なくないということです。日中の強い眠気という自覚症状があれば、点呼の場で「今日は体調が優れない」と申告することもできるでしょう。しかし、SASの中には、夜間の呼吸停止による中途覚醒を繰り返していても、本人がそれを自覚せず、「よく眠れている」と誤認しているケースが報告されています。この場合、運転者は点呼の場で正直に「大丈夫です」と答えてしまい、運行管理者もそれを信じるほかありません。つまり、点呼は「本人が異常を自覚し、それを申告する」という前提の上に成り立つ仕組みであり、自覚のないリスクを事前に検知する機能は本質的に備えていないのです。

ここに、SASスクリーニング検査という客観的な仕組みが必要になる理由があります。パルスオキシメトリーなどの簡易検査は、本人の自覚に頼らず、睡眠中の血中酸素飽和度の低下や脈拍の変動といった客観的なデータでリスクを可視化します。点呼が「その日、その瞬間の状態確認」であるのに対し、SASスクリーニングは「慢性的に積み重なっているリスクの土台」を発見する仕組みだと考えると、両者の役割の違いが整理しやすくなります。

義務としての点呼・健診と、推奨としてのSASスクリーニング

制度上の整理をもう一度確認しておきます。定期健康診断(一般運転者は年1回以上、深夜業従事者は6か月に1回以上)と乗務前後の点呼は、輸送安全規則に基づく明確な法令上の義務です。未実施であれば行政処分の対象になります。

一方、SASスクリーニング検査は、国土交通省自動車局『自動車運送事業者における睡眠時無呼吸症候群対策マニュアル』(令和7年7月改訂版)が示す「推奨検査」という位置づけであり、条文上の一律義務ではありません。ただし、貨物自動車運送事業法第17条第2項が事業者に課す「疾病運転の防止措置」義務を実効的に果たす手段として、行政は継続的にSASスクリーニングの実施を促しています。

この違いを運行管理の現場でどう扱うべきかというと、「点呼と健診は最低限のライン、SASスクリーニングはそのラインを超えて実効性を高めるための投資」という位置づけで説明すると、経営層にも運転者にも納得感のある伝え方になります。実際、令和4年4月施行の通達改正により、SASが疑われる居眠り運転・漫然運転による事故は「健康起因事故」として報告する対象になり、令和7年4月施行の改正では、事故の前後にSASスクリーニングを受診していたかどうかの報告まで求められるようになりました。行政のこうした制度対応からも、点呼だけでは捕捉しきれないリスクへの関心の高さがうかがえます。

IT点呼・遠隔点呼のデジタル化はどこまで進んでいるか

近年、労働力不足と運行管理者の負担軽減を背景に、ICTを活用した点呼のデジタル化が急速に進んでいます。従来の「IT点呼」は、安全性優良事業所(Gマーク)認定を取得している営業所などに限定されていましたが、国土交通省『遠隔点呼の実施要領』(令和4年4月通達)の施行により、Gマーク認定の有無にかかわらず、技術要件と施設環境を満たせばすべての営業所で実施可能な「遠隔点呼制度」が解禁されました。

令和6年3月末時点の国土交通省の集計では、遠隔点呼の届出数は緑ナンバー全業種で延べ1,444件、そのうちトラック運送事業者が1,131件を占めています。業務終了後の点呼を自動機器で無人化する「業務後自動点呼」の届出数も延べ1,090件(トラック事業者は860件)に達しており、中・大規模事業者を中心にデジタル化が着実に進んでいることが分かります。

遠隔点呼を導入する際には、次のような機能・施設要件を満たす必要があります。

  • 運転者の表情・全身の状態・酒気帯びの有無・疲労や睡眠不足の状況を確認できる高精細カメラ(200万画素以上、フレームレート30fps以上推奨)とモニター(16インチ以上推奨)
  • アルコール検知器の測定結果を自動保存・即時転送する機能
  • なりすまし防止のための顔認証・指静脈認証・虹彩認証などの生体認証機能
  • 記録の改ざん防止機能、点呼履歴のCSV一括出力機能
  • 運転者の顔面とカメラ間の照度を500ルクス程度確保する施設環境
  • アルコール検査の不正操作を監視する補助カメラの設置

これだけの要件を満たすことで、対面点呼と同等の確認精度を担保しようとしているわけですが、裏を返せば、遠隔点呼はあくまで「対面点呼の代替」を目指す仕組みであり、点呼そのものが持つ「自己申告への依存」という構造的な限界を解消するものではありません。

睡眠・体調管理データと点呼システムの連携という次の一手

遠隔点呼の普及とあわせて、外部の睡眠・体調管理システムのデータを点呼システムにリアルタイムで集約する運用事例が広がりつつあります。代表的なのは、運転者が就寝時に装着するウェアラブル端末や、寝具の下に敷設するシート型睡眠センサーによって、「睡眠時間」「睡眠の質(レム・ノンレム睡眠の割合)」「睡眠中の体動・無呼吸疑い回数」といったデータをクラウド経由で点呼システムへ自動送信する仕組みです。

運行管理者は、乗務前点呼の画面上で前夜の睡眠スコアを定量的に確認でき、「睡眠時間が基準未満」「睡眠の質が著しく低い」と表示された運転者に対しては、重点的なヒアリングを行ったり、当日の運行ルートを交代させたりする判断が可能になります。また、通信機能付きの血圧計や体温計を遠隔点呼端末と連動させ、測定数値を自動的に点呼記録簿へ反映するシステムも導入が進んでいます。

これらの取組に共通するのは、「体調に問題ありません」という運転者の主観的な自己申告だけに頼るのではなく、生体データという客観的なエビデンスを点呼プロセスに組み込むという発想です。SASスクリーニング検査が「数年に一度のリスク評価」だとすれば、こうした日々の睡眠データ連携は「毎日の状態確認をより客観的にする」取組であり、両者は補完関係にあります。すべての企業がすぐに導入できるレベルの投資ではありませんが、点呼のデジタル化を検討する際には、単なるアルコールチェックの自動化にとどめず、睡眠・体調データとの連携まで視野に入れる価値があります。

安全管理担当者のための段階的整備チェックリスト

フェーズ1:社内体制の構築

  • SAS取扱規程を策定し、対象者基準・実施頻度・費用負担・個人情報保護方針を明文化している
  • 運転者への目的説明と同意取得を行っている(排除目的ではないことの明示)

フェーズ2:法定義務の完全履行

  • 法定健康診断の受診率100%を達成している
  • 点呼時の疾病・疲労・睡眠不足確認と、記録簿の1年間保存を徹底している

フェーズ3:SASスクリーニングの計画と実施

  • 高リスク者(事故・ヒヤリハット歴、夜間勤務、長距離運転、肥満、健診異常)を優先した受診計画を作成している
  • 2〜3年周期の検査計画を運用している

フェーズ4:要精密検査者へのフォロー

  • 検査等を受けやすいよう勤務シフトを調整する仕組みがある
  • CPAP治療の継続状況(装着時間等)を定期的に確認している

フェーズ5:デジタル技術との連携

  • 遠隔点呼を導入する場合、機能要件(生体認証、200万画素カメラ等)と施設要件(照度500ルクス等)を満たしている
  • 睡眠・生体データを点呼時の判断材料として組み込む仕組みを検討している

建設業の朝礼・体調管理にも応用できる視点

輸送安全規則が定める点呼制度は運送事業に固有のものですが、「自己申告だけに頼らず、客観的な指標で体調を確認する」という発想は、建設現場の朝礼や作業前ミーティングにも応用できます。重機オペレーターや高所作業従事者の体調確認を、目視や口頭確認だけに頼らず、簡易な血圧測定やウェアラブル端末による睡眠データを組み合わせることで、点呼制度のない業種でも同様の客観性を担保する体制づくりが可能です。

点呼だけでは見えないリスクを、検査と治療継続でカバーする

SASスクリーニングで要精密検査となった運転者が、実際に治療を継続できるかどうかは、通院のしやすさに大きく左右されます。当院では、CPAP治療を続ける運転者の通院負担を軽減するオンライン診療の体制を整えています。運行管理体制の見直しとあわせて、自宅でできる睡眠健康チェックと医師レポートをセットにした法人向けプログラムについてもご相談ください。

法人向け睡眠健康支援プログラムのご相談はこちら →運送業の居眠り運転対策・国交省マニュアルの解説を見る →法人向けSAS健診の費用・導入の流れを見る →

よくある質問

Q. 点呼をきちんとやっていれば、SASスクリーニングは不要ですか?

A. いいえ。点呼は運転者本人の自覚と申告に依存する仕組みであり、自覚のないSASのリスクを検知することはできません。客観的なデータを得るには、別途スクリーニング検査が必要です。

Q. 遠隔点呼を導入すれば、居眠り運転対策として十分ですか?

A. 遠隔点呼は対面点呼と同等の確認精度を目指す仕組みであり、点呼が持つ「自己申告への依存」という構造は解消されません。SASスクリーニングや睡眠データ連携と組み合わせることで、より実効性が高まります。

Q. 睡眠データを点呼に活用する取組は、義務ですか?

A. 義務ではありません。あくまで一部の事業者が先進的に取り組んでいる事例であり、導入する場合は費用対効果を踏まえて検討する任意の施策です。

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、国土交通省の公表資料に基づく整理です。制度・要件は改正される可能性があるため、実際の導入にあたっては最新の公的資料をご確認ください。

参考・出典

  • 国土交通省『貨物自動車運送事業輸送安全規則』第3条・第7条・第8条・第17条・第20条
  • 貨物自動車運送事業法第17条第2項
  • 国土交通省『自動車事故報告書等の取扱要領』、自動車事故報告規則第2条第9号
  • 国土交通省物流・自動車局『自動車運送事業者における睡眠時無呼吸症候群対策マニュアル』令和7年7月改訂版
  • 国土交通省『遠隔点呼の実施要領』(令和4年4月通達)
  • 国土交通省 点呼制度届出状況集計(令和6年3月末時点)
  • 公益社団法人全日本トラック協会『健康起因事故防止マニュアル』(令和6年12月改訂版)
監修者の写真
監修
廣瀬 有紀子(ひろせ ゆきこ)
耳鼻咽喉科専門医・アレルギー専門医・日本医師会認定産業医
信州大学医学部医学科卒業。東京慈恵医科大学付属病院 耳鼻咽喉科ほか都内医療機関に勤務。日本睡眠学会、日本アレルギー学会、日本耳鼻咽喉科頭頚部外科学会、日本口腔・咽頭科学会 所属。
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