更年期からいびきが増えた女性へ|ホルモンと睡眠時無呼吸の関係
「若い頃はいびきをかかなかったのに、更年期を境に増えた」という方へ。女性ホルモンの変化が睡眠時無呼吸のリスクにどう関わるのか、研究データをもとに解説します。
「若い頃はいびきなんてかかなかったのに、40代後半から急にいびきをかくようになった」「閉経してから、パートナーに呼吸が止まっていると言われるようになった」——このように感じている女性は少なくありません。実際、閉経後の女性では睡眠時無呼吸症候群(SAS)が増えることが、複数の研究で報告されています。この記事では、更年期・閉経という特定のライフステージに焦点をあて、女性ホルモンの変化がSASのリスクにどう関わっているのかを、研究データに基づいて整理します。女性のSAS全般(見逃されやすい理由や症状の出方の違いなど)については、女性の睡眠時無呼吸症候群|見逃されやすい理由と受診のポイントで詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
閉経後にいびき・無呼吸が増えるというデータ
米国の一般住民を対象とした大規模な研究(Bixlerら、2001年)では、日中の症状を伴うSAS(AHI10以上)の有病率が、閉経前の女性で0.6%だったのに対し、ホルモン補充療法を使用していない閉経後の女性では2.7%と、約4倍以上に増加していました。同じ研究における男性の有病率は3.9%で、閉経後の女性はこれに近づく水準まで上昇していたことになります。
別の一般住民研究(Youngら、2003年)では、年齢・体格・喫煙などの影響を統計的に調整したうえでも、閉経後の女性は閉経前の女性と比べて、AHI5以上になる調整オッズ比が2.6倍、AHI15以上になる調整オッズ比が3.5倍という結果が示されています。また、女性219人を対象に半年ごとに在宅でのPSG検査を繰り返した縦断研究(Mirerら、2017年)では、年齢・BMI・腹囲・頸囲を調整した後でも、閉経後のAHIは閉経前と比べて平均31%高いという結果が報告されました。
一方で、閉経移行期(周閉経期)の女性約159人を約3.5年間追跡した研究(SWAN研究の縦断解析)では、閉経への移行とAHIの変化のあいだに明確な関連が確認されなかったという結果もあります。閉経後にSASが増えるという方向性は複数の研究で一貫して支持されていますが、「閉経した瞬間から誰もが同じようにSASになる」というほど単純ではなく、個人差が大きいことも事実です。
なお、日本呼吸器学会は、成人女性のSAS有病率を約2〜5%とし、閉経後に増加すると説明しています。「中等症以上のOSAが閉経後女性の約10%」という数値も紹介されていますが、これは国内外の文献を含めた概算であり、日本人女性だけを対象にした年代別の精密な調査結果ではない点には注意が必要です。日本人女性を対象にした睡眠外来の研究では、体格(BMI)を揃えた男性と比較して、女性はAHIや眠気の指標(ESS)が低めに出る一方、高血圧の頻度は男性と同程度だったという報告もあります。
女性ホルモンは呼吸・上気道にどう関係するのか
「更年期になるとホルモンが減って喉の筋肉が緩むから、いびきが増える」という説明を聞いたことがある方もいるかもしれません。しかし、これは実際の研究結果からすると、単純化しすぎた説明です。エストロゲンとプロゲステロンには、それぞれ次のような作用が想定されています。
プロゲステロンには、呼吸中枢を刺激し、二酸化炭素に対する換気の反応を高める作用があると考えられています。また、上気道を広げる筋肉の活動にも関与している可能性が指摘されています。
エストロゲンは、体脂肪がどこに蓄積しやすいか(脂肪分布)や、神経筋の機能、上気道を広げる筋肉の活動に間接的に影響すると考えられています。ある生理学研究では、健康な女性を対象に、月経周期の黄体期(プロゲステロンが高い時期)でオトガイ舌筋(舌を支える筋肉のひとつ)の活動が高く、閉経後の女性では活動が低いという結果が示されました。閉経後の女性にホルモンを短期的に投与すると筋活動が増加したという報告もありますが、この研究は少人数を対象に「覚醒しているときの筋活動」を測定したものであり、実際に睡眠中の上気道閉塞を防ぐ効果を証明したものではありません。
つまり、女性ホルモンが呼吸の調節や上気道の筋機能に関わっている可能性があるという生理学的な妥当性はある一方で、「ホルモンが減ったから喉の筋肉が緩んで無呼吸になる」と直接的に証明されているわけではない、というのが現時点で正確な理解です。ホルモン濃度そのものを操作した大規模な介入研究は行われておらず、加齢・脂肪分布の変化・生活習慣など、他の要因の影響を完全に切り分けることはできていません。
ホルモンだけが原因ではない
更年期以降にSASが増える背景には、女性ホルモンの変化以外にも、複数の要因が重なっていると考えられています。
- 加齢:上気道を支える筋肉や軟部組織の変化、神経の反応の変化など
- 体重増加・脂肪分布の変化:閉経前後は内臓脂肪や首まわりの脂肪がつきやすくなる傾向があり、体重(BMI)が同じでも脂肪のつき方の違いがSASに影響する可能性があります
- 鼻づまり・アレルギー性鼻炎:いびきや睡眠中の呼吸を悪化させる要因になり得ます
- 顎や上気道の形:日本人を含む東アジア系の人は、欧米人と比べて下顎が小さい・後退しているといった骨格的特徴を持つ方が多く、体型に関わらずSASを発症しやすいことが指摘されています
- 飲酒・睡眠薬の使用:上気道の筋肉を弛緩させ、無呼吸を悪化させることがあります。飲酒に関する実験研究をまとめた解析では、飲酒後にAHIが平均で1時間あたり2.33回増加したという報告があります
- 仰向けで眠る習慣:仰向けで悪化するタイプのSASでは、体位の影響も大きくなります
このため、「更年期からいびきが増えたのはホルモンのせい」と単純に決めつけるのではなく、体重の変化・鼻の通りやすさ・飲酒習慣・服用している薬など、心当たりのある要因がないか振り返ってみることも大切です。
更年期症状とSASの症状は重なりやすい
更年期の症状とSASの症状は、多くの部分で重なります。そのため、「更年期のせい」だと思っていたら実はSASだった、というケースも珍しくありません。以下は、両者の症状がどの程度重なるかを整理したものです。
| 症状 | 更年期でも | SASでも | SASをより疑う手がかり |
|---|---|---|---|
| 中途覚醒 | 起こる | 起こる | 窒息感・あえぎ・口の渇きを伴う |
| ほてり・寝汗 | よく起こる | やや起こる | 顔や胸から急に熱くなる感覚なら更年期寄り |
| 疲労感 | 起こる | よく起こる | 毎朝の回復感がなく、日中も続く |
| 日中の眠気 | 起こる | よく起こる | 会議中・運転中など不適切な場面で眠くなる |
| 集中力・記憶力低下 | 起こる | 起こる | 強い眠気や睡眠の分断を伴う |
| 朝の頭痛 | あまりない | 起こる | 起床時に繰り返し、時間とともに軽くなる |
| 呼吸停止の目撃 | ない | よく起こる | 最も具体的な手がかりのひとつ |
「寝汗があるから更年期」「朝の頭痛があるからSAS」と一対一に対応するわけではなく、片方だけでは判断できません。実際には更年期症状とSASが同時に起きていることも多く、両方が重なり合って不調を強めている場合もあります。
女性のSASは見逃されやすい
女性のSASは、男性に比べて見逃されやすい傾向があることが指摘されています。理由のひとつは、女性は同じ重症度でも、大きないびきや強い眠気よりも、不眠・疲労感・頭痛・気分の落ち込みといった形で症状が現れることがある点です。また、日中の眠気を評価する質問票(エプワース眠気尺度など)と実際のAHIとの相関が、女性では弱いという研究報告もあります。中年女性を対象にした研究では、SASのリスクを評価する質問票(STOP-Bang、3点以上)の中等症以上SASに対する検出力は、感度77%・特異度45%にとどまり、点数が低くてもSASを否定できないことが示されています。
さらに、女性ではレム睡眠中に呼吸イベントが集中しやすい「レム関連SAS」が比較的多いことも報告されています。この場合、一晩全体で平均したAHIは軽症の範囲に収まることがあり、数値だけでは重症度を過小評価してしまう可能性があります。一人暮らしの場合は、いびきや呼吸停止を指摘してくれる同居者がいないため、自分では気づきにくいという事情も見逃しにつながりやすい要因のひとつです。
ホルモン補充療法(HRT)でいびきは改善するのか
更年期症状に対してホルモン補充療法(HRT)を検討している方の中には、「HRTを始めればいびきや無呼吸も改善するのでは」と考える方もいるかもしれません。しかし、これまでの研究では明確な効果は示されていません。
観察研究では、HRTを使用している閉経後女性でSASの有病率が低いという報告がありました。ただし、HRTを使用する人は医療へのアクセスがよく、健康行動を取りやすい人が多いという「健康な人ほど治療を受けやすい」という偏り(健康使用者バイアス)の影響である可能性が指摘されています。実際、大規模な追跡研究では、HRTの安全性に関する大規模調査(WHI)の報告前にはHRT使用者のAHIが低い傾向がみられたものの、その報告後にはこの差がほとんど消えたという結果も報告されています。
少人数を対象にした介入研究でも、結果は一致していません。閉経後SAS女性15人を対象にした研究では、短期的なホルモン投与によっても臨床的な改善は見られませんでした。健康な閉経後女性を対象にした別の試験でも、SAS自体を持つ人が少なく、効果は限定的でした。こうした結果を踏まえ、米国睡眠医学会(AASM)の治療指針では、エストロゲン療法はSASの治療法として位置づけられていません。HRTはほてりや寝汗といった更年期症状の改善を目的とした治療であり、SASそのものを治す標準治療ではない、と理解しておくことが大切です。
検査を検討したいサイン
次のような症状や状況に心当たりがある場合は、「更年期だから仕方ない」と決めつけず、一度検査を検討することをお勧めします。
- 家族やパートナーから、呼吸が止まっていると指摘されたことがある
- 息苦しさや窒息感で目が覚めることがある
- ほぼ毎晩、大きないびきをかいていると言われる
- 十分な睡眠時間を取っているはずなのに、日中の強い眠気が続いている
- 朝の頭痛や口の渇き、夜間に何度もトイレに起きることが続いている
- 高血圧や心房細動などの持病がある
- 閉経後に体重増加といびきの悪化が同時期に起きた
- 運転中や作業中に、意図せず眠気に襲われることがある
特に、運転中の眠気や居眠りの経験がある場合は、検査の結果を待つあいだも運転を控えるなど、安全面を優先した対応が必要です。一方、風邪や一時的な鼻づまりのときだけいびきが強くなる、飲酒した夜だけ軽いいびきがある、といった一時的な変化で、日中の症状や持病がない場合は、しばらく経過を見るという判断も選択肢のひとつです。
検査と治療の選択肢
検査は、問診や質問票に加え、自宅でできる簡易検査から始めるのが一般的です。ただし、女性では簡易検査の指標が実際の重症度を低く見積もりやすいとされているため、症状が強いにもかかわらず簡易検査の結果が正常だった場合は、より詳しいPSG検査を検討することもあります。
検査の結果、SASと診断された場合の治療は、重症度や原因によって選択肢が分かれます。中等症〜重症ではCPAP療法が標準的な治療となりますが、CPAPが合わない場合や軽症〜中等症では、下顎を前方に固定して気道を広げる口腔内装置(マウスピース)、仰向け時のみ悪化するタイプに対する体位療法、体重管理、鼻づまりの治療など、複数の選択肢の中から医師と相談して選ぶことができます。
よくある質問
Q. 閉経したら、みんなSASになるのですか?
A. いいえ。閉経後にSASのリスクが上がる傾向は複数の研究で示されていますが、全員が必ず発症するわけではありません。体重・生活習慣・上気道の形など、個人差が大きい部分です。
Q. 太っていないので、SASの心配はないと思うのですが。
A. 体型だけで判断することはできません。日本人を含む東アジア系の人は、顎が小さい・後退しているといった骨格的な特徴により、肥満でなくてもSASになることがあります。
Q. ホルモン補充療法を受ければ、いびきも治りますか。
A. 研究では明確な効果は示されておらず、SASの標準的な治療法として位置づけられていません。更年期症状の改善を目的とした治療であり、いびきや無呼吸が気になる場合は別途、睡眠に関する検査・相談をお勧めします。
いびき・日中の眠気が気になる方へ
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いびき・日中の眠気 専門外来を見る →参考・出典
- 日本呼吸器学会『睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020』
- 日本呼吸器学会 市民向け情報『睡眠時無呼吸症候群』
- Bixler EO, et al. Prevalence of Sleep-Disordered Breathing in Women: Effects of Gender. Am J Respir Crit Care Med. 2001.
- Young T, et al. Menopausal Status and Sleep-Disordered Breathing in the Wisconsin Sleep Cohort Study. Am J Respir Crit Care Med. 2003.
- Pena Orbea C, et al. Sleep Apnea Screening in Middle-Aged Women. J Womens Health. 2020.

