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健康経営優良法人の認定と「睡眠」|従業員の睡眠指標をどう取組みとして示せるか

健康経営優良法人の認定と「睡眠」|従業員の睡眠指標をどう取組みとして示せるか

健康経営度調査票・認定申請書のどの設問に睡眠施策を対応させられるのか。大規模法人部門・中小規模法人部門の違いや、記録として残すべき項目を整理します。

「睡眠に関する取組を始めたが、これが健康経営優良法人の認定申請でどう評価されるのか分からない」。健康経営を担当していると、こうした壁に必ず突き当たります。調査票には「睡眠」という言葉自体は出てくるのに、どの設問に、どう対応させればよいのかが見えにくいためです。

結論から言うと、睡眠施策の実施だけで加点や認定が確約される仕組みはありません。しかし、健康経営度調査票・認定申請書を設問単位で読み解くと、睡眠関連の取組を根拠として記載できる箇所は明確に存在します。本稿では、健康経営優良法人2026の確定資料に基づき、睡眠指標をどの設問に、どのような記録とともに示せばよいかを整理します。

睡眠は「必須要件」ではなく「複数設問に関わるテーマ」

まず前提を正確にしておきます。健康経営優良法人の認定要件一覧において、「睡眠施策の実施」という単独の必須項目や選択要件は存在しません。大規模法人部門は必須要件を満たした上で17の選択要件中14以上、中小規模法人部門は健康宣言などの必須要件に加え、区分ごとに定められた数の選択要件を満たす構造になっており、睡眠はこの中の複数の設問に「関わり得るテーマ」として位置づけられています。

「睡眠プログラムを導入すれば認定される」という説明は誤りです。正しくは、「睡眠という健康課題を、既存の評価項目の文脈で説明できるかどうか」が問われている、という理解が実務上安全です。

大規模法人部門:睡眠が明記されている設問

健康経営度調査票(2026年版)では、睡眠は複数の設問に具体的に登場します。

Q56(生産性低下予防) には、「睡眠障害や、業務中の眠気による生産性の低下予防」という設問があり、選択肢に休憩・仮眠室の整備、パワーナップ、SAS検査(費用補助を含む)、睡眠改善アプリ、産業医等による睡眠関連指導が並びます。自宅睡眠チェックやSASスクリーニングを導入している場合、この設問への回答材料として最も直接的に使えます。ただし、この設問は認定要件一覧に掲げられた17の選択要件そのものではなく、個別の配点は公表されていない点に注意が必要です。

この設問がなぜ「生産性低下予防」という枠組みに位置づけられているかというと、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)の自覚症状として日中の眠気だけでなく「集中力の低下」を挙げる患者が一定数存在することが、学会のガイドラインでも指摘されているためです。SASスクリーニングは単なる健康診断項目の追加ではなく、生産性リスクの把握という文脈で説明できる施策だと理解しておくと、Q56への回答が書きやすくなります。

なお、実務担当者が混同しやすい点として、自宅で行う簡易検査の結果は、厳密にはAHI(精密検査で算出される無呼吸低呼吸指数)ではなく、REI(呼吸イベント指数)と呼ぶのが正確です。簡易検査は実際の睡眠時間を測定できないため、算出される指数は精密検査に比べて数値を過小評価しやすいという特性があります。社内資料でこの数値を扱う際は、「簡易検査(REI)」「精密検査(AHI)」を区別して記載すると、誤解を招きません。

対象者の選び方にも注意が必要です。SASは肥満との関連が知られていますが、日本人は骨格的な特徴により、肥満のない従業員でも発症することがあります。体型を基準にスクリーニング対象を絞ると、実際にリスクを抱える従業員を見落とす可能性があるため、全従業員を対象にするか、体型ではなくいびき・日中の眠気などの症状の有無を基準に案内する設計が望ましいといえます。

Q64(成果指標) では、健診問診等による生活習慣・健康状態の把握指標の一つとして「睡眠により十分な休養が取れている人の割合」が挙げられています。従業員向けの睡眠休養感アンケートを匿名集計すれば、この指標をそのまま裏付けるデータになります。

Q39(健康教育) の教育内容候補には「睡眠」が明記されています。社内勉強会や睡眠セミナーはこの設問に対応しますが、同設問は研修テーマの詳細自体を評価には用いないと明記しており、「睡眠をテーマにしたから加点される」わけではありません。重要なのは、対象者数・参加率を把握し、記録していることです。参加率を把握していない場合は不適切と判断される可能性がある、という点は見落とされがちです。

Q33(健康経営全体の推進計画)Q71(施策効果の検証・改善) は、いずれも必須認定要件です。Q33の健康課題テーマ例には「睡眠不足の改善」が含まれ、Q71は睡眠時間の変化を効果指標例として提示しています。つまり、睡眠施策を単発のイベントで終わらせず、「課題として設定し」「実施し」「効果を検証し」「翌年度に改善する」という一連のサイクルを記録できているかどうかが、最も重要な評価軸になります。

取組と設問の対応関係を一覧で把握する

睡眠関連の取組が、どの設問にどの程度対応するのかを一覧化すると、社内での説明資料としても使いやすくなります。

取組大規模法人部門中小規模法人部門
睡眠研修・社内勉強会Q39に明記(参加率把握が前提)Q14の健康教育に含め得るが睡眠の明記なし
睡眠時間・休養感アンケートQ64・Q71に直接記載通常認定は明記なし。ブライト等Q38で関連
SASリスクチェック・検査Q56にSAS検査が明記通常設問に明記なし
匿名・統計化レポートQ33・Q64・Q71の計画・把握・検証の材料Q32、上位区分Q38のPDCA材料
集計結果に基づく施策改善Q71で直接要求(必須)Q32で直接要求(必須)

この表からも分かる通り、大規模法人部門のほうが睡眠固有の設問が明確な一方、中小規模法人部門では「健康教育」「受診勧奨」といった一般的な枠組みの中に位置づける必要があります。この非対称性を理解せずに、大規模法人部門向けの説明資料をそのまま中小規模法人部門の申請に流用すると、設問との対応が弱くなる点に注意してください。

中小規模法人部門:通常認定とブライト500以上で扱いが異なる

中小規模法人部門の通常の認定申請書には、睡眠を直接名指しした選択項目は確認できません。健康教育(Q14・Q15)や受診勧奨(Q12)の一般的な枠組みの中で、睡眠研修や睡眠リスク者への受診案内を間接的に位置づけることになります。

中小規模法人部門の選択要件は「①〜③から2以上」「④〜⑩から2以上」「⑪〜⑰から4以上」という3つのグループから、それぞれ規定数を満たす構造になっています。睡眠研修は④〜⑩グループの健康教育(Q14・Q15)に含め得ますが、このグループには運動・食生活・禁煙・メンタルヘルスなど他の選択肢も並んでおり、睡眠だけを取り出して要件充足の根拠にする必要はありません。むしろ、既に実施している他の生活習慣施策と並べて「健康教育の一環」として整理するほうが自然です。

一方、ブライト500・ネクストブライト1000という上位区分向けのPDCA設問(Q38等)には、経営課題のテーマ例として「睡眠不足の改善」が明記されています。上位認定を目指す場合は、睡眠を経営課題として明示的に設定し、施策・参加状況・評価・改善までを一貫して示す設計が有効です。通常認定とブライト以上で睡眠の扱いに差があることは、担当者の間でも意外と整理されていません。

受診勧奨から治療・就労継続へ:2026年度の制度変化を踏まえる

Q36(大規模)・Q12(中小規模)の受診勧奨は、「案内して終わり」ではなく、実際に治療につながり、就労を継続できているかまでを視野に入れると、施策としての説得力が増します。ここで押さえておきたいのが、2026年度の制度変化です。

令和8年度の診療報酬改定により、CPAP治療の保険適用基準が緩和されました。簡易検査(REI)で30以上、精密検査(AHI)で15以上(諸条件あり)であれば治療対象となり、従来「中等症だから経過観察」とされていた従業員も、早期に治療を開始できる可能性が広がっています。受診勧奨後の「その先」がスムーズになったことは、施策設計の背景として記録しておく価値があります。

また、同じ2026年度改定で、従来は対象疾患が限定されていた「療養・就労両立支援指導料(B001-9)」の疾患要件が撤廃され、反復的な治療が必要で就業継続に配慮が求められる患者であれば、幅広く算定できる制度になりました。CPAP治療を継続する従業員について、主治医が産業医等へ治療状況や就業上の留意点を共有するこの仕組みを活用すれば、「受診勧奨をしただけ」ではなく、医療機関・産業保健と連携して就労継続を支援した実績として、Q53(保健指導)やQ71の効果検証の記録に厚みを持たせることができます。

治療の継続しやすさという観点では、オンライン診療を活用した通院負担の軽減も選択肢に入ります。多忙な従業員ほど通院を理由に治療を中断しやすいため、継続管理の手段を複数用意しておくことは、Q71が求める「効果検証と改善」の実効性を高めることにもつながります。

「取組んでいる」ことをどう記録として残すか

調査票の設問は、実施した事実だけでなく「把握し、検証し、改善した記録」を求めています。実務上、次の記録を残しておくと、複数の設問への回答根拠として機能します。

  • 健康課題、数値目標、責任者、期限を含む健康経営計画(Q33対応)
  • 睡眠施策の対象者、実施期間、実施方法(Q56対応)
  • 研修の実施日、対象者数、参加率(Q39対応)
  • 匿名化した睡眠休養感・睡眠時間の集計値と基準時点(Q64対応)
  • 効果検証の方法、結果、翌年度に見直す事項(Q71対応)

特に重要なのは、企業向けに提供される匿名集計レポートを「受け取って終わり」にせず、健康経営推進会議や経営会議で報告し、次年度の施策見直しに使った記録を残すことです。Q71・中小規模部門のQ32はいずれも、評価と改善の両方がなければ不認定と明記されている必須要件であり、単年度の実施だけでは説明力が弱くなります。

効果検証の指標は、休養感アンケートのような主観的な指標だけでなく、より客観性の高い指標と組み合わせると説明力が増します。例えば、治療を開始した従業員における「1日平均4時間以上のCPAP使用」という継続利用の状況は、日中の眠気改善と関連する目安として学会でも扱われている指標であり、治療導入後のフォローアップ状況を示す材料になり得ます。また、学会のガイドラインでは、CPAP治療が日中の眠気だけでなく身体的・精神的な生活の質(QOL)全般の改善にも寄与するという報告が示されており、睡眠休養感アンケートの改善を「単なる主観の変化」ではなく、既存のエビデンスと整合する変化として説明する際の裏付けにできます。

実際に取り組んでいる企業の例

SCSKは睡眠モニタリングやアプリの活用と睡眠教育セミナーを、長時間労働削減施策と併せて健康経営の中核施策の一つに位置づけています。伊藤忠商事は朝型勤務制度と連動させた睡眠・休養セミナーを実施し、第一生命保険は睡眠改善アプリとSASリスクスクリーニング、要医療者への受診勧奨を組み合わせています。オムロンヘルスケアは自社の睡眠計測技術を用いた全社セミナーとスクリーニングを行っています。

森トラストやリコーITソリューションズのように、「睡眠により十分な休養が取れている」割合や睡眠充足率を毎年公表し、健康指標として時系列で追跡している例もあります。森トラストは2022年68.9%、2023年65.8%、2024年66.8%という3年分の数値を公表しており、単年の実施報告ではなく継続的な指標としての扱いが分かります。DeNAは2024年度のSAS検査人数を71人と公表しており、こうした利用実績を集計値として示すことも、健康課題の把握を裏付ける材料になります。これらはいずれも、単発の施策ではなく、継続的な指標化とセットで運用されている点が共通しています。

避けるべき表現

制度の文脈で睡眠施策を説明する際、次のような表現は景品表示法や医療広告ガイドラインに抵触するリスクがあるため避ける必要があります。「導入すれば健康経営優良法人に確実に認定される」「睡眠検査を実施するだけで加点される」「睡眠対策は必須義務項目である」といった断定表現です。正確には、「健康課題の把握、健康教育、受診勧奨、効果検証という既存の評価項目の中で、睡眠施策を根拠として整理できる」という説明にとどめるべきです。

次回申請に向けて

健康経営優良法人2027の申請受付は2026年8月17日に開始予定で、大規模法人部門は10月9日、中小規模法人部門は10月16日が締切です(申請日程は公表済み、最終要件・様式は本稿執筆時点で未公表)。睡眠施策を根拠として使うのであれば、申請直前に取組を始めるのではなく、健康課題の設定から効果検証までのサイクルを、今の時点から記録し始めることが実務上の近道になります。

睡眠の健康課題把握から、記録が残る形で始めたい企業へ

従業員の睡眠健康チェック、匿名の集計レポート、社内勉強会までを一体で提供する法人向けプログラムをご案内しています。健康経営度調査票・認定申請書のどの設問に対応させられるかを踏まえた設計についても、あわせてご相談いただけます。

法人向け睡眠健康支援プログラムのご相談はこちら →睡眠とプレゼンティーイズム・生産性の関係を見る →人事担当者のためのSAS基礎知識と社内勉強会の設計を見る →

よくある質問

Q. 睡眠施策を導入すれば健康経営優良法人に認定されますか?

A. いいえ。睡眠施策の実施だけで認定や加点が確約される仕組みはありません。健康課題の把握、健康教育、受診勧奨、効果検証といった既存の評価項目の中で、根拠の一つとして整理できるものです。

Q. 中小規模法人部門でも睡眠施策は評価対象になりますか?

A. 通常認定の申請書には睡眠を直接名指しした選択項目はありませんが、健康教育や受診勧奨の枠組みに含めることは可能です。ブライト500・ネクストブライト1000向けのPDCA設問には「睡眠不足の改善」が経営課題のテーマ例として明記されています。

Q. 睡眠セミナーは参加者数さえ確保すれば評価されますか?

A. 大規模法人部門のQ39は、研修テーマの詳細自体を評価には用いないと明記しています。重要なのは、対象者数・参加率を把握し、記録として残しているかどうかです。

Q. 企業向けの匿名集計レポートは、受け取るだけで認定要件を満たせますか?

A. 満たせません。Q71(大規模)・Q32(中小規模)はいずれも必須要件で、評価と改善の両方を求めています。レポートを次年度の施策見直しに使った記録まで残すことが必要です。

Q. 2027年の申請スケジュールはいつからですか?

A. 申請受付は2026年8月17日開始予定で、大規模法人部門は10月9日、中小規模法人部門は10月16日が締切です(2026年7月時点の公表情報)。最終的な要件・様式は別途公式発表を確認してください。

Q. 受診勧奨した従業員が治療につながったかどうかも記録する必要がありますか?

A. 記録が求められているのは「評価と改善」であり、個人の受診・治療状況そのものを人事が収集することは推奨されません。2026年度から疾患要件が撤廃された「療養・就労両立支援指導料」のように、医療機関・産業保健が連携する制度を活用しつつ、企業側は匿名化された利用実績・参加率の集計にとどめる設計が安全です。

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、健康経営優良法人の認定を保証するものではありません。設問番号・認定要件は健康経営優良法人2026の確定資料に基づいており、2027年度以降の内容は変更される可能性があります。申請にあたっては、必ず経済産業省・日本健康会議の最新公式資料をご確認ください。

参考・出典

  • 経済産業省『健康経営優良法人認定制度』制度概要
  • 経済産業省・日本経済新聞社『健康経営度調査票』(健康経営優良法人2026・大規模法人部門)
  • ACTION!健康経営(日本健康会議)『健康経営優良法人2026 大規模法人部門 認定要件』
  • ACTION!健康経営(日本健康会議)『健康経営優良法人2026 中小規模法人部門 認定要件・申請書』
  • 経済産業省『第6回健康経営推進検討会』資料(2026年7月14日)
  • 経済産業省『健康経営優良法人2026認定法人の発表』(2026年3月9日)
  • SCSK株式会社、伊藤忠商事株式会社、第一生命ホールディングス、ロート製薬株式会社、オムロンヘルスケア株式会社、DeNA、森トラスト、リコーITソリューションズ 各社公式サイト・サステナビリティレポート(確認日:2026年7月24日)
  • 一般社団法人日本呼吸器学会『睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020』(CQ10:OSAと日中の眠気・自覚症状の関連/CQ21:CPAPによるQOL改善効果)
  • 日本循環器学会 等『2023年改訂版 循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン(JCS 2023)』(簡易モニター(REI)の特性と過小評価のリスク/解剖学的リスク要因)
  • 厚生労働省『令和8年度診療報酬点数表』在宅持続陽圧呼吸療法(CPAP)導入基準の見直し(2026年6月施行)、療養・就労両立支援指導料(B001-9)の対象疾患要件撤廃
  • 厚生労働省『オンライン診療の適切な実施に関する指針(令和8年4月改訂版)』
監修者の写真
監修
廣瀬 有紀子(ひろせ ゆきこ)
耳鼻咽喉科専門医・アレルギー専門医・日本医師会認定産業医
信州大学医学部医学科卒業。東京慈恵医科大学付属病院 耳鼻咽喉科ほか都内医療機関に勤務。日本睡眠学会、日本アレルギー学会、日本耳鼻咽喉科頭頚部外科学会、日本口腔・咽頭科学会 所属。
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