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「やる気はあるのに集中できない」はプレゼンティーイズムかもしれない|睡眠と生産性の関係

「やる気はあるのに集中できない」はプレゼンティーイズムかもしれない|睡眠と生産性の関係

集中力低下やミスの増加を「やる気の問題」と決めつける前に。プレゼンティーイズムという概念と、睡眠との関連を示す研究データを整理します。

やる気がないわけではない。締切も理解している。それなのに、同じ資料を何度も読み返してしまう、会議中に話の内容が頭に入ってこない、簡単なミスを繰り返す──。こうした状態を「集中力がない」「サボり癖」と自己評価してしまう人は少なくありません。しかし、その背景に睡眠の問題があり、専門的には「プレゼンティーイズム」と呼ばれる状態に当てはまるケースがあります。本稿では、この現象を精神論ではなく研究データに基づいて整理します。

プレゼンティーイズムとは何か、やる気の問題と何が違うか

プレゼンティーイズムとは、出勤しているにもかかわらず、健康上の問題によって十分な業務パフォーマンスが発揮できない状態を指します。経済産業省や厚生労働省の資料でも、この趣旨で定義されています。欠勤(アブセンティーイズム)とは異なり、本人は仕事をしているという自覚があるため、「自分の能力不足」「意欲の低下」だと誤解しやすいのが特徴です。

やる気の問題とプレゼンティーイズムを区別する手がかりの一つが、状態の一貫性です。単純なモチベーション低下であれば、興味のある業務では集中力が戻ることが多いものです。一方、睡眠不足や睡眠の質の低下が背景にある場合、興味の有無にかかわらず、午後に強い眠気が出る、単純作業でのミスが増える、会議の内容を覚えていない、といった状態が繰り返し起こりやすくなります。「好きな仕事のときだけ集中できる」のか「何をしていても頭が働かない時間帯がある」のかは、自分の状態を振り返る際の一つの目安になります。

研究が示す「関連」の中身

国内の就労者を対象にした研究には、睡眠と自己申告の業務パフォーマンスの関連を示すものが複数あります。東京の17事業所の従業員2,897人を対象にした横断研究では、5〜6時間や5時間未満の短時間睡眠、主観的な睡眠の質の低さ、日中の機能障害が、より大きな業務上の制約と関連していました。また別の研究では、平日・休日ともに睡眠時間が6時間未満だった群は、両日とも6〜8時間だった群に比べ、業務パフォーマンスが低い状態になる調整オッズ比が2.17(95%信頼区間1.40〜3.37)と報告されています。国内企業の従業員9,366人を約1年間追跡した研究でも、睡眠習慣の悪化と業務パフォーマンスの変化に関連が見られました。

これらはいずれも「関連」を示す研究であり、睡眠だけが原因であることを証明するものではありません。長時間労働や業務負荷、メンタルヘルス、持病、家庭環境なども、睡眠と業務パフォーマンスの両方に影響します。それでも、複数の独立した研究で同様の関連が繰り返し観察されている事実は、「単なる甘え」で片付けるべきではないことを示しています。

一方で、介入研究には希望も見えます。国内の製造業1社で行われたランダム化比較試験では、センサーとアプリ、週次のアドバイスを組み合わせた3か月間の介入により、睡眠の状態と自己記入式の業務指標の双方が改善したと報告されています。ただし、これは1社・任意参加・複合的な介入の結果であり、「誰にでも同じ効果がある」とは言えません。職域での睡眠介入に関する系統的レビューでも、不眠に対する認知行動療法(CBT-I)は睡眠とプレゼンティーイズムの両方で対照群との差が確認された一方、睡眠衛生教育のみといった軽い介入では根拠が限定的とされています。「睡眠研修を受ければ生産性が上がる」という単純化はできない、というのが研究の到達点です。

睡眠が集中力を奪うメカニズム

「眠いから集中できない」というのは感覚として分かりやすい説明ですが、実際に体の中で起きていることはもう少し込み入っています。睡眠不足や睡眠の質の低下では、脳の回復に重要な役割を持つ深睡眠(徐波睡眠)が減少し、日中の覚醒レベルや記憶の整理・定着に影響が出ます。さらに、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)が背景にある場合は、睡眠中に呼吸が浅くなったり止まったりすることで間欠的な低酸素状態が繰り返され、睡眠そのものが細切れになります。眠っている時間の長さだけでなく、脳がどれだけ「質の良い休息」を取れているかが、翌日の集中力を左右しているのです。

実際、OSA患者を対象にした調査では、いびきや日中の眠気だけでなく、「集中力の低下」を自覚症状として挙げる割合が28%にのぼると報告されています(日本呼吸器学会ガイドライン)。これは単なる主観的な「眠さ」ではなく、疾患の代表的な症状の一つとして、脳機能への影響が起きていることを示しています。「やる気はあるのに集中できない」という感覚の背景に、こうした生理的な仕組みが関わっている可能性がある、という理解が出発点になります。

プレゼンティーイズムはどう測られているのか

「自分の集中力が落ちている」という感覚を、研究の世界ではどう数値化しているのでしょうか。代表的なものに、世界保健機関が開発したWHO-HPQ(自分の業務パフォーマンスを0〜100点で自己評価する)や、健康問題による時間管理・身体・精神面・成果への制約を測るWLQ(Work Limitations Questionnaire)があります。いずれも日本語版の検証研究が行われており、国内の職域調査でも使われています。

ここで注意したいのは、これらはすべて自己記入式の尺度だということです。売上やエラー件数のような客観的な業務データそのものではなく、「本人がどう感じているか」を数値化したものです。そのため、「パフォーマンスが20%低下」という数字が出たとしても、それは客観的な能力低下率ではなく、本人の主観的な実感を反映した指標だと理解しておく必要があります。とはいえ、主観的な実感であっても、それが繰り返し測定され、複数の研究で睡眠指標と関連することが確認されている以上、無視してよい情報ではありません。

気づいたときにできること

睡眠に起因するプレゼンティーイズムかもしれないと感じたとき、いきなり大きな生活改善を目指す必要はありません。まず取り組みやすいのは、就寝・起床時刻を平日・休日で大きくずらさないこと、就寝前のスマートフォン使用や強い光を避けること、日中に軽い運動や光を浴びる時間を作ることです。これらは睡眠衛生と呼ばれる基本的な習慣で、多くの人にとって最初の一歩になります。

一方で、生活習慣を見直しても日中の眠気や集中力の低下が改善しない場合、背景に睡眠時無呼吸症候群(SAS)のような治療が必要な睡眠関連疾患が隠れていることがあります。特に、いびきや呼吸停止を家族から指摘されたことがある場合は、生活習慣の工夫だけで様子を見るのではなく、医療機関での評価を検討する段階だと考えるべきです。厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」も、生活習慣の見直しで休養感が改善しない場合は睡眠障害を念頭に医療機関へ相談するよう案内しています。

「以前、検査を受けたら中等症と言われ、治療対象にならなかった」という方にも補足しておきたい点があります。令和8年度の診療報酬改定により、CPAP治療の保険適用基準が見直されました。簡易検査での指数(AHI/REI)が30以上であれば、精密検査を経ずにCPAP治療を開始できるようになり、精密検査(PSG)の結果でも指数15以上(諸条件あり)で治療対象となるなど、以前より早い段階で治療を検討できる基準に緩和されています。過去に「まだ治療の対象ではない」と言われた経験がある人も、現在の基準で改めて評価してもらう価値があります。

また、CPAP治療の目的は無呼吸の回数を減らすことだけではありません。日本呼吸器学会のガイドラインでは、CPAP治療によって日中の眠気だけでなく、身体的・精神的な生活の質(QOL)全般が改善するという報告が示されています。仕事のパフォーマンスに限らず、生活全体の底上げにつながる可能性がある点も、治療を検討する材料になります。

「忙しくて病院に行く時間がない」という事情も、以前より対応しやすくなっています。オンライン診療を通じて自宅で簡易検査キットを受け取り、結果説明や治療開始後の継続管理までを行える医療機関も増えています。通院の負担が、受診を先延ばしにする理由にならないケースも増えてきています。

管理職の立場からこの記事を読んでいる方にとっても、示唆は同じです。部下の集中力低下やミスの増加を「やる気の問題」と決めつける前に、睡眠という切り口があることを知っておくだけで、対話の質は変わります。ただし、上司が部下の睡眠状態を詮索したり、体調を理由に評価を下げたりすることは避けるべきです。あくまで本人が気づき、必要なら自分の意思で相談できる環境を用意することが、組織としてできる最も現実的な関わり方です。

「日本は年1,380億ドル損失」という数字の正しい読み方

睡眠不足の経済損失としてしばしば引用される「日本は年間1,380億ドル(GDPの2.92%)を失っている」という数字は、RAND Europeが2016年に発表した試算に由来します。これは実際に観測された損失額ではなく、「7時間未満の睡眠者が全員7〜9時間の睡眠を取るようになった場合」という仮定を置いた反実仮想シミュレーションです。同じ報告書には、より緩やかな仮定によるシナリオ(6時間未満の人だけが6〜7時間に改善する場合はGDP差額757億ドル)も併記されています。この数字を「今この瞬間に日本が失っている金額」あるいは「自社の損失もこの比率で計算できる」と扱うのは誤りです。マクロ経済モデルの前提を理解した上で、睡眠が経済活動に与える影響の大きさを示す参考値として捉えるのが適切です。

自分の状態を振り返るための視点

医学的な診断は本人にはできませんが、次のような状態が数週間続いている場合、単なる集中力不足やモチベーションの問題として片付けず、睡眠の観点から振り返ってみる価値があります。

  • 睡眠時間を十分取ったつもりでも、日中に強い眠気や倦怠感が続く
  • 興味の有無にかかわらず、特定の時間帯(特に午後)に判断力が落ちる自覚がある
  • 家族や同居者から、いびきや呼吸停止を指摘されたことがある
  • 睡眠中に息が詰まる感覚や、あえぐような呼吸で目が覚めたことがある
  • 夜間に何度も目が覚める、あるいは起床時に頭痛や熟眠感のなさを感じる
  • 平日・休日を問わず、睡眠時間が6時間を大きく下回る日が続いている

これらの中でも、「睡眠中の窒息感やあえぎ呼吸」は、いびきや日中の眠気単独よりもSASを疑う根拠として重視される症状です。いびきは家族に指摘されて初めて気づくことが多い一方、窒息感やあえぎ呼吸は本人が夜中に目を覚ますきっかけになるため、自覚しやすい症状の一つです。

また、「太っていないから自分は関係ない」と考えるのは早計です。SASは肥満のある人に多い病気として知られていますが、日本人を含むアジア系の人は骨格的に顎が小さい傾向があり、標準体型やそれ以下の体格でも気道が狭くなりやすいことが指摘されています。痩せ型・標準体型のビジネスパーソンが「やる気はあるのに集中できない」状態に悩んでいる場合、体型を理由にSASの可能性を除外しない方がよいでしょう。

これらは診断の代わりにはなりませんが、「自分の状態を言語化する」ための材料になります。いびきや呼吸停止といった症状が伴う場合は、単なる睡眠不足ではなく睡眠時無呼吸症候群(SAS)などの睡眠関連疾患が関わっている可能性もあり、その場合はセルフケアではなく医療的な評価が必要になります。

「気合が足りない」で終わらせないために

プレゼンティーイズムという概念の価値は、パフォーマンスの低下を個人の性格や意志の問題としてではなく、健康上の要因として扱える点にあります。もちろん、睡眠だけがすべての原因ではありません。しかし、研究の蓄積が示す通り、睡眠時間や睡眠の質と自己申告の業務パフォーマンスの間には、無視できない関連があります。「やる気はあるのに集中できない」状態が続いているなら、それは意志の弱さではなく、体からのサインである可能性を一度検討してみる価値があります。

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よくある質問

Q. プレゼンティーイズムとアブセンティーイズムはどう違いますか?

A. アブセンティーイズムは病気やけがによる欠勤そのものを指します。プレゼンティーイズムは出勤しているにもかかわらず、健康上の問題で業務パフォーマンスが十分に発揮できていない状態を指し、本人が自覚しにくい点が特徴です。

Q. 自分がプレゼンティーイズムの状態かどうかは、どう判断すればよいですか?

A. 自己診断はできませんが、興味の有無にかかわらず特定の時間帯に判断力が落ちる、単純作業のミスが増える、といった状態が数週間続いているかどうかは一つの目安になります。原因の特定や診断は医療機関の評価が必要です。

Q. 睡眠を改善すれば、必ず生産性は上がりますか?

A. 「必ず上がる」とは言えません。国内外の研究は睡眠と自己申告の業務パフォーマンスの「関連」を示していますが、業務負荷やメンタルヘルスなど他の要因も影響するため、睡眠改善だけで成果を保証するものではありません。

Q. 「日本は年間1,380億ドルの経済損失」という数字は事実ですか?

A. これはRAND Europeが2016年に公表した、仮定に基づく経済シミュレーションの試算値であり、実際に観測された損失額ではありません。前提条件を理解した上で参考値として捉えるべき数字です。

Q. 部下の集中力低下に気づいた上司は、どう対応すればよいですか?

A. 体調や睡眠状態を詮索したり、それを理由に評価を下げたりすることは避けるべきです。本人が気づき、必要であれば自分の意思で相談できる環境や窓口を用意することが、現実的にできる対応です。

Q. 以前の検査で「中等症だから治療対象外」と言われました。今は状況が変わっていますか?

A. 令和8年度の診療報酬改定で、CPAP治療の保険適用基準が緩和されました。簡易検査で指数30以上、精密検査で指数15以上(諸条件あり)であれば治療対象となり得るため、以前に対象外と判断された方も、現在の基準で改めて評価してもらう価値があります。

Q. 太っていないのですが、SASの心配はないでしょうか?

A. 体型だけでSASの可能性を除外することはできません。日本人を含むアジア系の人は骨格的な特徴により、標準体型やそれ以下の体格でも気道が狭くなりやすいことが指摘されています。いびきや睡眠中の息苦しさなどの症状がある場合は、体型にかかわらず評価を検討する価値があります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の症状や業務パフォーマンス低下の原因を診断・特定するものではありません。気になる症状が続く場合は、医療機関にご相談ください。

参考・出典

  • Hafner M, et al. Why Sleep Matters — The Economic Costs of Insufficient Sleep: A Cross-Country Comparative Analysis. RAND Europe, 2016.
  • 経済産業省・厚生労働省 プレゼンティーイズム/アブセンティーイズムに関する資料
  • Kessler RC, et al. “The World Health Organization Health and Work Performance Questionnaire (HPQ).” Journal of Occupational and Environmental Medicine, 2003.
  • Lerner D, et al. “The Work Limitations Questionnaire.” Medical Care, 2001.
  • Kawakami N, et al. 日本語版WHO-HPQ短縮版の信頼性・妥当性に関する研究, 2020.
  • Ishibashi Y, Shimura A. “Association between work productivity and sleep health.” Industrial Health, 2020.
  • Takano Y, et al. 睡眠時間とプレゼンティーイズムに関する横断研究, 2024.
  • Tsuchida A, et al. 睡眠習慣とパフォーマンス変化に関する縦断研究, 2024.
  • Kawata N, et al. 職域睡眠介入ランダム化比較試験, 2023.
  • Takano Y, et al. 職場睡眠介入に関する系統的レビュー, 2021.
  • 厚生労働省『健康づくりのための睡眠ガイド2023』
  • 一般社団法人日本呼吸器学会『睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020』(CQ10:OSAと日中の眠気・自覚症状の関連/CQ21:CPAPによるQOL改善効果/CQ35:運転事故リスクと治療によるリスク低減/表13:OSA患者における自覚症状の出現頻度)
  • 日本循環器学会 等『2023年改訂版 循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン(JCS 2023)』(4.1.1 機序:解剖学的リスク要因/4.1.2 臨床症状)
  • 厚生労働省『令和8年度診療報酬点数表』在宅持続陽圧呼吸療法(CPAP)導入基準の見直しについて(2026年6月施行)
監修者の写真
監修
廣瀬 有紀子(ひろせ ゆきこ)
耳鼻咽喉科専門医・アレルギー専門医・日本医師会認定産業医
信州大学医学部医学科卒業。東京慈恵医科大学付属病院 耳鼻咽喉科ほか都内医療機関に勤務。日本睡眠学会、日本アレルギー学会、日本耳鼻咽喉科頭頚部外科学会、日本口腔・咽頭科学会 所属。
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